法律行為(意思表示)は、物権変動を生ずる重要な原因の一つです。
たとえば、抵当権の設定契約がなされると、それによって抵当権が発生します。
抵当権の設定契約は、抵当権の発生という物権変動を目的とする法律行為、すなわち物権行為(処分行為)ですから、それによって物権変動が生ずることに問題はありません。
これに対して、売買契約にもとづいて目的物の所有権を移転させようとする場合には、売買契約から直ちに物権変動が生ずることを認めるには考慮の余地があります。
売買契約自体は、債権債務を発生させることを目的とする法律行為、すなわち債権行為(債務負担行為)ですから、そこから直接に物権的な効果が発生するのはおかしくないか。債権行為である売買契約とは別に、所有権移転を目的とする物権行為をも必要とするのではないかと考えることもできるからです。
このことは、売主に目的物の処分権限がない他人物の売買(560条)においてとくに浮き彫りになります。
物権変動を生じさせるために債権行為とは別個独立に物権行為を必要とすることを物権行為の独自性とよびます。かつて日本民法の解釈として物権行為の独自性を認める考え方が有力でした。
形式主義を採用するドイツ法は物権行為の独自性を認めますが、意思主義を採用するフランス法はこれを認めません。もっとも、意思主義の下でも、物権行為の独自性を認めることは理論的には可能です。
しかし、判例や現在の通説は、物権行為の独自性を否定しています。この立場は、通常の売買において債権行為と物権行為とを区別せず、端的に売買契約の効果として所有権が移転し、売買契約が無効になれば所有権移転も当然に効力を失うと考えます。
物権行為の独自性を肯定する立場をとると、物権行為とその原因である債権行為とを切り離して、債権行為が無効となっても物権行為が当然に無効になるわけではないと考えることもできます。これを物権行為の無因性とよびます。
物権行為の独自性を認めるか否かで具体的な結論が異なってくるのは、後述の所有権移転の時期はいつかという問題においてです。