物権の変動には取引の安全のために公示が要請されますが、物権の客体が不動産である場合には公示方法として登記が採用されています。
ここでは、不動産登記のしくみや手続きについて簡単に解説します。
(以下、不動産登記法を「不登法」と略します。)
不動産の登記とは、不動産に関する情報を公の帳簿である登記簿に記録することをいいます。
登記事務を管掌する国家機関(法務局・地方法務局およびその支局・出張所)を登記所といい、登記所の事務を取り扱う公務員を登記官といいます。
登記簿に記録されることによって、その不動産に関する情報(登記事項)を誰でも(有料で)確認することができるようになります。
登記事項を確認するには、①登記事項要約書の取得、②登記事項証明書の取得、③登記情報提供サービスの利用という三つの方法があります。
旧不動産登記法(以下、旧法と略す)の下で行われていた不動産登記簿の直接閲覧は、現行法の下では登記簿のコンピーター化によってできなくなりました。
(1) 登記簿の編成
不動産に関する情報は、個々の不動産(一筆の土地または1個の建物)ごとに電磁的記録として登記簿に記録されます(物的編成主義)。
登記簿は、旧法では登記用紙に記載してバインダーに綴じる方式が原則でしたが、現行法では磁気ディスクに記録する方式が採用されています。また、旧法では不動産登記簿が「土地登記簿」と「建物登記簿」とに分かれていましたが、現行法ではこのような分別はされていません。
登記簿に記録される個々の不動産のデータ(登記記録)は、基本的に「表題部」と「権利部」に区分されます(不登法12条)。
表題部は、不動産の物理的現況(不動産の表示といいます)に関する情報が記録される部分です。
権利部は、不動産の権利関係に関する情報が記録される部分です。
権利部はさらに、法務省令によって、所有権に関する事項を記録する「甲区」と、所有権以外の権利に関する事項を記録する「乙区」に区分されます(不動産登記規則4条4項)。
登記記録のイメージを次の様式例で確認しましょう。
(2) 登記することができる権利
登記することができる権利は、所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、採石権の九つです(不登法3条各号)。
占有権・入会権・留置権は物権であっても登記することができず、賃借権は債権ですが登記することができます。
これらの権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限または消滅)が、登記簿の権利部に記録されることになります。
登記は、いくつかの観点から分類されます。
(1) 表示に関する登記と権利に関する登記
登記は、不動産の表示または不動産に関する権利の保存等について行われます(不登法3条)。
(a) 表示に関する登記
不動産の表示(物理的現況)についてする登記を表示に関する登記といいます。表示に関する登記は、表題部に記録されます。
たとえば、新築した建物の所有権を取得したり、土地の分筆または合筆をしたりした場合には、その不動産について表示に関する登記をします。(表題部に最初にされる登記をとくに表題登記といいます。)
表示に関する登記の登記事項は、土地の場合は所在、地番、地目(土地の用途)、地積(土地の面積)などであり、建物の場合は所在、名称、家屋番号、種類・構造・床面積などです。
(b) 権利に関する登記
不動産に関する権利の保存等についてする登記を権利に関する登記といいます。権利に関する登記は、権利部に記録されます。
たとえば、土地を購入や差押えがあった場合には権利部の甲区にその旨の登記がなされ、抵当権の設定や抹消があった場合には権利部の乙区にその旨の登記がなされます。
(2) 本登記と予備登記(仮登記)
権利に関する登記は、それが権利変動について対抗力を生じさせるかどうかによって、本登記と予備登記に分けられます。
本登記は、権利変動について対抗力を生じさせる登記です(終局登記ともいいます)。所有権移転の登記や抵当権設定(変更)の登記、差押の登記などがこれにあたります。
予備登記は、本登記の準備としてする登記であり、それ自体は対抗力を生じさせるものではありません。現行法上認められているものとして、将来の本登記の順位を保全するための仮登記があります。
(3) 独立登記と付記登記
権利に関する登記は、その形式によって独立登記と付記登記に分けることができます。
独立登記は、独立の順位番号が与えられる登記です。たとえば、所有権移転の登記や抵当権設定の登記は独立登記です。
付記登記は、すでに存在する登記(主登記といいます)の順位番号に枝番号を付してなされる登記です。たとえば、登記名義人表示変更の登記や抵当権変更の登記は、それぞれ所有権移転の登記や抵当権設定の登記を主登記としてなされる付記登記です。
登記した権利の順位は登記の受付の順序によって決まりますが、付記登記の順位は主登記の順位によります(不登法4条)。
登記は、原則として、当事者の申請または官庁・公署の嘱託がなければ行うことができません(不登法16条)。これを申請主義といいます。
表示に関する登記は、当事者の申請がなくても登記官が職権で行うことができます(不登法28条)。
(1) 当事者の申請による登記の手続き
当事者が登記の申請をする場合、電子申請(電子情報処理組織を使用する方法、いわゆるオンライン申請)と書面申請(書面を登記所に提出する方法)の2つの方法があります。
以下、売買による所有権移転登記を例にして、従来からある書面申請についての手続きの流れをごく簡単に説明します。
① 登記原因の発生
不動産の売買契約がなされて所有権が売主から買主に移転すると、買主はその権利を保全するために(民法177条参照)所有権移転の登記の申請をする必要があります。
売主にも、買主の求めに応じて、登記の申請に協力する義務があります。
② 申請書の作成と添付書類の入手
当事者(売主・買主)は、登記申請書を作成すると同時に、それに添付しなければならない書類を入手します。
売買による所有権移転登記の場合には、当事者間の登記原因証明情報(売買契約書・売渡証書など)、売主の印鑑証明書と登記識別情報または登記済証(いわゆる権利証)、買主の住民票の写しなどを添付します。
③ 申請書類の提出
当事者は、準備した申請書類一式を目的の不動産を管轄する登記所に提出します。
オンライン申請の導入にともなって旧法下での出頭主義が廃止され、書面申請における書類提出も郵送によって行うことができるようになりました。なお、不登法24条参照。
④ 登記官による審査・登記簿への記録
登記所で登記の申請が受け付けられると、登記官は、その申請にかかる事項を審査し(不登法25条参照)、申請に不備がないことを確認したときに申請内容にしたがって登記簿に記録します。
権利に関する登記の場合、登記官は、登記申請の内容どおりに登記することができるかを、登記簿(登記記録)や申請情報とその添付情報のみにもとづいて判断しなければなりません(他の判断資料の収集が認められない)。これを形式的審査主義といい、登記の迅速性と公平性を図ることを理由とします。
これに対して、表示に関する登記の場合には、登記官自らが申請内容が真実であるかどうかを実際に調査することができ、これを実質的審査主義といいます(不登法29条参照)。
⑤ 登記識別情報・登記完了証の受取り
登記が完了すると、新たな登記名義人(買主)に対して登記識別情報(英数字12桁の符号)と登記完了証が通知・交付されます。
登記名義人本人の申請であることを確認する手段として、旧法では登記済証(いわゆる権利証)の提出が必要とされていたのが、現行法では登記識別情報の提出に変わりました。また、登記済証が果たしていた登記が完了したことを証明する機能は、登記完了証によって代替されることになりました。
なお、現在、登記名義人が持っている登記済証は、書面申請における添付書面として利用することができます。
売買契約による所有権移転の登記を申請する場合、買主と売主とが共同して申請を行うことになっています。これを共同申請の原則とよび、買主と売主はそれぞれ登記権利者、登記義務者とよばれます(不登法60条参照)。
共同申請の原則をとる結果、当事者には相手方に対して登記手続きに協力するように請求する権利が認められます。これを登記請求権とよびます。
(2) 官庁・公署の嘱託による登記
登記の申請は、一般人だけでなく、官庁や公署もすることがあり(これを嘱託といいます)、その場合になされる登記を嘱託による登記(嘱託登記)とよびます。
嘱託による登記は、官庁・公署が権利関係の当事者として嘱託する場合(例、官庁の土地払下げによる所有権移転の登記)と、官庁・公署が公権力の主体として嘱託する場合(例、民事執行法にもとづく差押えの登記)の二つに分けられます。
嘱託による登記の手続きは、官庁・公署に対する信頼(公文書の信憑性)から、申請による登記とは異なった扱いがなされます。官庁・公署が登記権利者または登記義務者である場合であっても、共同申請によらずに官庁・公署が単独で登記の嘱託をします(不登法116条)。また、登記嘱託書には、登記識別情報ないし登記済証の提供・添付は必要ありません。