このページの最終更新日 2016年2月11日
代理とは、本人以外の者が本人のために意思表示を行うことによって、その意思表示(法律行為)の効果が直接に本人に帰属する制度を言う(99条参照)。本人のために意思表示をする者を代理人と呼ぶ。
たとえば、本人Aに代わって、その代理人Bが、相手方Cとの間で本人のために売買契約を締結すると、売買契約は、BとCとの間にではなく、直接にAとCとの間に成立する。すなわち、本人Aが自ら相手方Cと契約したのと同様の効果が生じる。
意思表示ないし法律行為の効果は、その行為をした当人に帰属するのが原則である(私的自治)。しかし、代理においては、行為をする者(代理人)とその効果が帰属する者(本人)とが異なる。このように、法律行為の効果が行為者ではなく他人に帰属することを他人効と言う。代理という制度は、この他人効を特色とする。
〔考察〕代理の本質論
代理の本質の捉え方に関する伝統的な議論がある。代理における「行為者」は誰かという問題である。代理人のした法律行為の効果が本人について発生する根拠をどう考えるかということに関連する。
この点に関して次のような学説がある。
① 代理人行為説(通説)
代理における法律行為の行為者は代理人であると考える説である。代理という制度は、法律行為の効果を行為者以外の者に帰属させるための仕組みであって、私的自治の原則の例外として理解される。
この説によれば、代理人の行為の効果が本人に帰属する根拠は、代理人が本人のための行為であることを示すこと(顕名)にある。代理権の存在は、本人保護のための効果帰属要件にすぎない。
この説は、民法の代理に関する規定(101条などの法文)と整合的であり、さらに、代理の実態に即している、任意代理と法定代理(後述)の他人効の根拠をともに説明することができるといった理由から通説となっている。
② 本人行為説
代理における法律行為の行為者は本人であって、本人の意思が代理人によって実現されるものと考える説である。
この説は、私的自治の原則を強調して、法律行為の主体と効果帰属の主体とは一致するべきであると考える。代理人が本人のための行為であることを示すこと(顕名)は、法律行為の相手方を保護するために要求されるにすぎない。
この説は、代理人に行為能力が要求されていないこと(102条)と整合的であるが、代理と使者(後述)が区別されていることを説明できないという問題がある。また、法定代理については説明があてはまらず、法定代理と任意代理とは本質的に別個の制度として理解することになる。
③ 共同行為説
本人と代理人が共同して法律行為をすると考える説である。私的自治の観点から代理人行為説を修正したものである。
代理制度の機能ないし存在理由として、一般に次の二つが挙げられる。
① 私的自治の拡張
人が行う取引の規模や範囲が拡大してくると、一人だけで自己にかかわるすべての取引を処理することが難しくなる。そこで、自己の活動領域を広げるために他人に自己の代わりとして取引させることが必要になる。
後述する任意代理がこの機能を担う。
② 私的自治の補充
近代法はすべての自然人に権利能力を認めているが、現実問題として年少者や認知症の高齢者のように取引を行えるだけの十分な判断能力を持たない者も存在する。そこで、それら社会的弱者に代わって他人に取引ないし財産管理を行わせることが要請される。
主に法定代理がこの要請に応えるものである。
〔考察〕法人の代表
法人は独立の権利主体であるが、その活動を実際に行うのは自然人である。自然人が法人の業務執行機関として対外的に行った行為の効果が法人に帰属する。この関係を「代表」と言うが、代理に準じて、あるいは代理の一種として扱われている。
なお、民法上、「代表」という語を使用している規定がいくつか存在するが(107条・824条・859条など)、これらは代理と同義である。
代理の法律関係は、本人、代理人および相手方(第三者)の三者間の関係として捉えることができる(99条参照)。
(1) 本人と代理人の関係(代理関係)
代理が成立するためには、本人と代理人との間に代理権が存在しなければならない。
代理権とは、法律行為の効果を本人に帰属させることができる代理人としての地位を言う。代理権には、本人の意思にもとづいて生じるもの(任意代理)と、本人の意思にもとづかずに生じるもの(法定代理)とがある(後述)。
代理権が存在しないときは、無権代理・表見代理の問題となる。
(2) 代理人と相手方の関係
代理人と相手方(第三者)との関係においては、代理人が相手方に対して、代理人自身ではなく本人のためにすることを示して、つまり、行為の効果を本人に帰属させることを示して意思表示をすることが必要である。
本人のための意思表示であることを示すことを顕名というが、代理人が代理権にもとづいて行った意思表示(代理行為)の効果が本人に帰属するためには、顕名がなされなければならない。
顕名がない場合には、代理人がした行為は代理人自身のための行為とみなされる(100条本文)。すなわち、代理人自身に行為の効果が帰属する。
(3) 本人と相手方の関係
代理人と相手方との間で意思表示(法律行為)がなされると、その行為の効果が直接に本人に帰属する。
「直接に」というのは、法律行為の効果である権利義務関係が、いったん行為者である代理人に帰属した後に本人に移転するというのではなく、直ちにそのまま本人について生ずるという意味である。
そして、法律行為の効果である権利義務関係は、そのすべてが本人に帰属する。つまり本人は、法律行為の当事者としての地位を取得する。代理行為の瑕疵を理由とする取消権なども、代理人ではなく本人が取得する。
代理においては、任意代理と法定代理の区別が重要である。
本人の意思にもとづいて代理権が生じる場合を任意代理と呼び、本人の意思にもとづかないで代理権が生じる場合を法定代理と呼ぶ。
たとえば、本人が他人に売買契約を委託する際にその他人に対して代理権を与えるのは任意代理であり、未成年者の親権者が法律の規定(824条)によって包括的な代理権を有するのは法定代理である。
民法上、復代理と代理権の消滅において、任意代理と法定代理とで異なる取扱いがなされている。また、表見代理規定の適用について法定代理に関しては否定される傾向にある。
〔考察〕任意代理と法定代理の区別
代理の本質論に関する立場の違いによって、任意代理と法定代理の区別がもつ理論的な意味が異なってくる。
通説である代理人行為説の立場からは、任意代理と法定代理とで他人効の根拠の説明に違いはなく、両者の区別は代理権の発生原因の違いによることになる。
一方、本人行為説の立場からは、任意代理と法定代理とでは他人効の根拠についての説明が違うので、両者は本質的に異なる制度として理解されることになる。
代理人が相手方に対して意思表示をする場合を能働代理(積極代理)と呼び(99条1項参照)、代理人が相手方の意思表示を受領する場合を受働代理(消極代理)と呼ぶ(同条2項参照)。
両者の違いは、本人のためにすることを示す者が能働代理においては代理人であるのに対して、受働代理においては相手方であるという点にある。そのため、民法100条は受働代理には適用されないといった相違がある。
代理人が代理行為として相手方と契約をするときは、申込みと承諾の意思表示について能働代理と受働代理をともにすることになる。
代理は、あらゆる法律関係において認められるわけではない。次のような行為については、代理は認められない(代理に親しまない行為)。
① 事実行為・不法行為
代理は意思表示ないし法律行為についてだけ認められており、事実行為や不法行為の代理は認められない。
たとえ代理人が何らかの不法行為をしたとしても、本人が代理の効果としてその責任を負わされることはない。ただし、使用者責任(715条)を負うことはありうる。
〔参考〕占有における「代理」
民法の占有に関する規定(180条以下)には「代理人」という語が用いられているが、これは占有制度に特有の観念(代理占有と言う)であって、法律行為の代理を意味するものではない。
② 身分行為
婚姻などの身分行為については、原則として代理は認められない。本人自身が意思決定を行う必要があるからである。
例外として、代諾養子縁組(797条)がある。
代理に機能的に類似しているが、代理とは区別すべき制度がいくつかある。ここでは、使者と間接代理を取り上げる。
(1) 使者
本人が決定した意思を相手方に伝達する者を使者と言う。たとえば、親が子供に伝言させるのがこれにあたる。
代理と使者との違いは、意思決定の主体が異なる点にある。すなわち、代理においては本人ではなく代理人が意思決定(意思表示)をするのに対して、使者においては意思決定をするのは本人自身である。
このような基本的違いから、代理と使者とでいくつかの法適用上の相違が生じる。
まず、代理人は行為能力は不要であっても(102条)意思能力は必要であるのに対して、使者は行為能力と意思能力のいずれも不要とされる。
次に、意思表示の瑕疵は、代理においては代理人を基準に判断する(101条1項)が、使者においては本人を基準に判断する。
また、本人の意図した内容と相手方に表示・伝達された内容とが異なる場合、代理であれば表見代理(110条など)の問題となるが、使者であれば錯誤(95条)の問題となる。
(2) 間接代理
たとえば、証券会社(商法上の問屋)は、顧客(委託者)からの注文に応じて、自己が売主または買主となって有価証券の売買取引を行う(商法551条)。
これは、顧客ではなく証券会社自身に売買契約上の権利義務が帰属するので(同法552条1項)、本人(顧客に相当)に権利義務が直接帰属する法律上の代理とは異なる。ただし、経済的効果を委託者に帰属させるために、代理に関する規定が準用される(同条2項)。
そこで、このような制度を間接代理と呼ぶことがある。