法令による代表権の制限については、特別に第三者を保護する規定は存在しません。法令は誰でも知っているべきだという理由によります。
しかし、民法の表見代理規定を適用する余地が完全にないわけではありません。
たとえば、市町村長は現金を出納(授受)する権限をもたない(会計管理者の専権である。地方自治法149条・170条)。それゆえ、市町村長がその自治体の代表として第三者から金銭を借り受ける合意をしてその交付を受けたとしても、その金銭借入れ(消費貸借)の効果はその自治体には帰属しない(消費貸借契約は金銭等の交付を成立要件とする要物契約であるが(587条)、市町村長には金銭の交付を受ける権限がないからである)。したがって、市町村長の借入れ行為は、無権代理行為となる。
判例は、このような法令による代表権の制限の場合において民法110条の類推適用の可能性を認める(大判昭16.2.28、上例の事案につき最判昭34.7.14)。もっとも、代表者が権限を有しないことが法令の規定上明らかである以上、正当な理由は容易には認められない(110条の類推適用を肯定した例として最判昭39.7.7、最判昭40.12.14)。