自然人と異なり、法人の権利能力には次のような制限が存在します。
法人はその性質上、自然人が生命・肉体を基礎として享有する権利(身分上の権利や労働者の地位など)を享有することができません。
しかし、法人も社会の構成単位である以上、名称権や名誉権(最判昭39.1.28)のような人格権が認められます。
法は、他人が、不正の目的をもって、他の法人の名称あるいはその法人と誤認されるような名称・商号を使用することを禁止しています。
法人は、他人に名称を不正利用されることによって利益を侵害され、または侵害されるおそれがあるときは、その者に対して侵害の停止または予防を請求することができます(一般法人法7条、会社法8条)。
法人は法によって権利能力を与えられる以上、法によってその権利能力を制限することも可能です(34条)。
たとえば、法人は、一般社団法人・一般財団法人の役員や株式会社の取締役になることができません(一般法人法65条1項1号・177条、会社法331条1項1号)。
なお、法人であっても無限責任社員となることは可能です。
法人は、定款などの基本約款において、その事業内容である目的を定めます(一般法人法11条1項1号・153条1項1号、会社法27条1号など)。
そして、民法34条は、法人は、「定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定しています。
これは、この文言を素直に読めば、法人の権利能力を基本約款上の目的によって制限したものと解することができます。判例も、そう解しています。
しかし、学説上は次に述べるように、目的によって制限されるものが何であるかについて見解が対立しています。
民法34条(平成18年改正前民法43条)は、イギリス法の制度であるウルトラ・ヴァイレースの法理に由来します。
平成18年改正前は、法人に対する後見的保護の不当性や取引の安全を理由として、会社などの営利法人に対しては本条の適用(類推適用)はないとする見解が商法学者によって主張されていました。
しかし、同改正によって、本条は営利法人にも適用されることが明記されました(33条2項)。
なお、実務上、会社の定款は事業目的を広く列挙し、かつ、包括的に定めるのがふつうであり、そのような会社において目的による制限が問題となることはまずありません。