〔考察〕法人格のない団体の存在理由
(1) かつての法人制度においては、①公益法人と営利法人の二類型しか用意されていなかったので、学会・同窓会のように公益目的でも営利目的でもない団体は、特別の法規定のないかぎり、法人格を取得することができなかった。また、②公益法人となるためには主務官庁の許可を必要とするため、その事実上の前提である先行実績や財産的基礎のない団体は公益法人となることが難しかった。そこで、①②のような理由によって法人となれない団体をめぐる法律関係をどのように処理すべきかについて議論が活発になされた。
(2) しかし、平成13年の中間法人法の制定、さらには平成18年の公益法人制度改革によって一般社団法人の設立が認められたことにより、①②の理由によって法人となれなかった団体についても、法人となる道が開かれることとなった。このようにして従来の議論が前提としていた状態が解消された結果、団体が法人格を有しない理由としては、③団体があえて法人格を取得しない場合や、④法人となるために設立中の団体である場合だけしか考えられなくなった。このうち、④設立中の団体については、法人の設立に関する規定が整備されている以上、法人格の欠如をことさら問題にする必要はない。したがって、現在、「権利能力なき社団」として問題とされるのは、もっぱら③のような団体にかぎられる。
ある団体が権利能力なき社団であると認定されることによって、具体的にどのような効果が生じるのか。判例によって認められた効果として、次のようなものがある。
① 権利能力なき社団の財産は構成員に総有的に帰属する(前掲最判昭39.10.15、最判昭32.11.14など)。
② 不動産登記について、社団は登記請求権を有せず、代表者個人の名義による登記のみが認められる(最判昭47.6.2)。
③ 社団の債務について、社団(構成員全員)の総有財産だけが責任財産となり、構成員各自は直接には責任を負わない(有限責任、最判昭48.10.9)。
社団の財産は構成員の個人財産と区別されるべきであるが、社団に権利能力がないため、誰にどのような形で帰属するのかが問題となる。この点に関して判例は、構成員全員の総有という理論構成をとる(上記①)。総有という構成をとる帰結として、社団の構成員は、当然には、社団財産の上に持分権や分割請求権を有しない(上掲最判昭32.11.14)。
社団の代表者が社団の名において行った取引の効果は、その社団の構成員全員に総有的に帰属する(上掲最判昭39.10.15、上掲最判昭48.10.9)。したがって、社団の債務についても構成員に総有的に帰属する。権利能力なき社団の権利義務について総有的帰属という構成をとるのは、実質的に団体自身に権利義務が帰属するのと同様の結論を導くためである。
また、判例は、社団の債務に対する構成員の責任を有限責任であるとする(上記③)。(報償責任の観点から、営利団体の場合には構成員の無限責任を認めるべきであるとする有力説がある。)
形式的には、権利能力なき社団の不動産は構成員全員に総有的に帰属し、社団自身は不動産についての権利主体となることはできないから、権利能力なき社団は登記請求権を有せず、不動産の登記名義人になることは認められない。構成員全員の共有名義で登記をする方法もあるが、社団の構成員は変動することが予定されているから現実には困難である。
そこで、社団構成員の総有に属する不動産を信託的に代表者個人の所有として、代表者が個人の名義で登記をする方法が認められている(上記②)。
なお、社団の代表者である旨の肩書をつけた登記(たとえば、「A社団代表理事B」)をする方法も考えられるが、実質上、社団を権利者とする登記であって不動産登記法の趣旨に反するから認められない(上掲最判昭48.10.9)。