不動産の登記には、一定の効力が認められます。
(1) 対抗力
物権変動は、その原因が生じただけでは第三者に対抗することができません。不動産の物権変動を第三者に対抗するためには、登記を必要とします(177条)。
登記のもっとも重要な効力は、第三者に対抗できる効力を物権変動に与えることです。これを対抗力といいます。
制度上登記することができる物権変動の範囲と、登記が対抗要件として要求される物権変動の範囲は異なります。たとえば、新築建物の所有権取得は保存登記なくして第三者に対抗することができます(保存登記は対抗要件ではありません)。
(2) 推定力
不動産登記は真正な権利関係にもとづいている蓋然性が高いことから、登記された権利関係は真に存在するものと推定されます。これを登記の推定力とよびます。
登記による権利推定は、法律上の推定ではなく証明責任の転換されない事実上の推定であるとされています(最判昭和34.1.8)。
登記の推定力と占有の推定力(188条)との関係が問題になりますが、既登記の不動産については占有の推定力が働かない、あるいは登記の推定力が優先すると考えられています。
なお、権利変動の当事者間では、登記の推定力は働きません(最判昭和38.10.15)。
(3) 公信力
真実には存在しない権利関係の外観を信頼して取引した者を保護する効力を公信力といいます。
民法は、動産の占有に公信力を認めていますが、不動産の登記には公信力を認めていません。その結果として、不実登記を信頼して取引した第三者は原則として保護されません。
登記に公信力がないのは、不動産のような重要な財産については、真実の権利者の利益を保護する必要性のほうが取引の安全の必要性よりも大きいと考えられているためです。
また、現在の不動産登記制度も、登記官に形式的審査権しか与えられていないなど、登記に公信力が与えられるほどに真正の担保が十分であるとはいえません。
登記に公信力がない結果として、不実登記を信頼して登記名義人と取引した第三者は保護されないのが原則です。しかし、不実登記の作出・存在に真実の権利者がかかわっている場合にまで、第三者を犠牲にして権利者を保護する必要はありません。
そこで、判例は、このような制度上の不備を補うために、民法94条2項を類推適用することによって、不実登記につき善意である第三者を保護しています(最判昭和45.9.22など)。
登記が権利変動に対抗力を生じさせるための要件を登記の有効要件といい、形式的有効要件と実質的有効要件に分けることができます。
(1) 形式的有効要件
登記の手続きが適法に(不動産登記法などの規定にしたがって)なされることです(不登法25条参照)。
この点に関して問題となるのは、登記申請に必要な書類や申請人の権限に瑕疵があった場合です。
判例は、登記申請の書類が偽造されていたり、無権代理人が登記申請したりした場合であっても、登記内容が実体的法律関係と符合するかぎり、登記は有効であるとしています(最判昭和41.11.18など)。
(2) 実質的有効要件
登記内容が実体的権利関係に合致していることです。
たとえば、所有権移転登記が仮装売買(虚偽表示)によるものであった場合、所有権移転の効力が生じない以上、登記も無効となります。登記が無効とされることによって、不動産の所有者は登記の抹消を請求することができます。
また、不動産登記は、公示を担う制度として、物権変動の過程を忠実に反映することが望ましいといえます。
しかし、判例・学説は、登記が実際の物権変動の過程どおりになされていなくても、現在の実体的権利関係に合致しているかぎりにおいて、その登記を有効(抹消登記請求ができない)と解する傾向があります。
そのような場合の例として、登記の流用や中間省略登記があります。
中間省略登記とは、不動産の所有権がA、B、Cの順に移転された場合に、中間者Bを飛ばしてAからCに直接に移転登記することをいいます。中間者は主に不動産業者であり、税負担の回避策としてこのような登記が行われます。
判例は、すでになされた中間省略登記について、現在の実体的権利関係に合致している場合には中間者以外の者は登記の無効を主張して抹消登記を求めることができないとしています(最判昭和44.5.2。中間者であっても、抹消登記請求をすることができるのは正当な利益を有する場合にかぎられます―最判昭和35.4.21。)。