不動産登記手続きにおける共同申請の原則と登記請求権について解説します。
登記は、当事者の申請にもとづいて行われるのが原則です(申請主義)。
とくに権利に関する登記の申請は、登記することによって登記上直接に利益を受ける者(登記権利者)と登記上直接に不利益を受ける登記名義人(登記義務者)とが共同して行うことが原則とされています。これを共同申請の原則といいます(不登法60条)。
たとえば土地の売買による所有権移転の登記を考えると、買主はその登記をすることによって登記上その土地の権利者となることができるので登記権利者となります。逆に売主(登記名義人)は、登記をすることによって登記上その土地の権利者でなくなるので登記義務者となります。
登記権利者である買主は、単独では所有権移転の登記を申請することができず、登記義務者である売主(登記名義人)の協力を必要とします。このように登記によって不利益を受ける者の協力を必要とするのは、登記内容の真正を確保するためです。
例外的に、相続や法人の合併による権利の移転の登記、判決による登記、登記名義人の表示の変更の登記などについては、当事者が単独で申請することができます(不登法63条・64条)。なお、表示に関する登記については所有者が単独で申請します。
共同申請の原則を採用する結果、登記権利者は登記義務者が申請に協力しないかぎり登記することができなくなります。
そのため、登記権利者には登記義務者に対して登記に協力することを請求する権利が認められており、これを登記請求権とよびます。
登記請求権が認められる結果、登記義務者に対して登記に協力することを命ずる判決をすることができ、その確定判決にもとづいて登記権利者は単独で登記を申請することができるようになります。
なお、登記請求権は、目的物の引渡請求権と同じような、他の当事者を相手方とする実体法上の権利です。登記申請の当事者が登記官に対して登記という行為を求める権利(登記申請権)とは区別されます。
登記請求権は、登記権利者だけに認められるとはかぎりません。たとえば、売買契約を解除した場合の買主は移転登記の抹消によって登記上直接に不利益を受けますが、売主に対して抹消登記の申請に協力するように請求する権利を有します(最判昭和36.11.24)。これを登記引取請求権とよぶこともあります。
(1) 登記請求権の発生原因
判例上、登記請求権は次のような場合に認められています。
① 実体的な物権変動がある場合
② 実体的には物権が存在せず、物権変動も生じていないのに、登記が存在する場合
③ 当事者間に登記をする特約がある場合
たとえば売買がなされた場合の目的物の引渡を請求する権利としては、契約にもとづく請求権(債権)と、所有権にもとづく物権的請求権の二つが考えられます。それと同様に、登記請求権にも、債権的なものと物権的なものの両方の性質の権利を考えることができます。
②の場合は物権的な登記請求権、③の場合は債権的な登記請求権、①の場合は物権的登記請求権と債権的登記請求権とがあわせて生じると考えることができます。
(a) 実体的な物権変動がある場合
たとえば、不動産の売買における買主(売主)は、売主(買主)に対して登記請求権(登記引取請求権)を当然に有します。また、地上権設定契約における地上権者は、設定者(所有者)に対して登記請求権を有します。
売買にもとづく登記請求権(登記義務)は、特約の有無にかかわらず、当然に発生します。買主は、目的不動産を転売した後も、売主に対する登記請求権を失いません。
また、登記請求権は、所有権とは独立して消滅時効にかかることはありません。
(b) 実体的には物権が存在せず、物権変動も生じていないのに、登記が存在する場合
無権利者が偽造文書を用いて移転登記をした場合(いわゆる冒認登記)や、所有権移転登記後に売買契約が無効となった場合には、真正の権利者や登記名義人は登記の抹消(抹消登記)を請求することができます。
(c) 当事者間に登記をする特約がある場合
賃借権は債権であって排他性がないため、対抗力を具備するための登記まではその権利内容に含まれていません。したがって、賃借権にもとづく登記請求権は認められていません(大判大正10.7.11)。
しかし、建物の賃貸借契約をする際、当事者間で賃借権設定の登記をする特約をしていた場合は、賃借人は賃貸人に対して登記請求権を有します。
(2) 中間省略登記請求
不動産の所有権がA、B、Cの順に移転された場合に、中間者Bを飛ばしてAからCに直接に登記を移転することを中間省略登記といいます。
この場合に、CからAに対して直接に所有権移転の登記を請求することができるかという問題があります。判例は、中間省略登記について登記名義人Aおよび中間者Bの同意がある場合にこれを認めています(最判昭和40.9.21)。
登記実務上、当事者の申請による中間省略登記は認められていませんが、判決にもとづく中間省略登記は可能です。以前の不動産登記制度の下では、AからCへの移転登記申請が簡単に受理されることがありました。しかし、現在の制度の下では登記申請の審査が厳格になったため、中間省略登記の申請が受理される余地がなくなりました。
もっとも実務上は、権利移転の法的構成を工夫することによって(単純な売買ではなく、第三者のためにする契約や買主の地位の移転という形にする)、中間省略登記をするのと同様の目的(税負担の回避)を達成することができます(いわゆる新中間省略登記)。
不動産がAからB、BからCへと転売された場合、Cは、Bに対して有する登記請求権を保全するために、BのAに対する登記請求権を代位行使(423条)することができます(大判明治43.7.6)。