このページの最終更新日 2020年11月6日
抵当権は、質権とならぶ約定担保物権(担保目的物の所有者と債権者との合意によって設定される担保物権)の一つである。
抵当権と質権のいずれも担保物権として優先弁済的効力(他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けること)が認められるが、両者には目的物を債権者に引き渡すことを要するかどうかで違いがある。
質権の設定では目的物の引渡し(占有の移転)を必要とするのに対して(344条)、抵当権の設定ではそれを必要としない(369条参照)。
たとえば、AがBから金銭を借り受けるに際してA所有の不動産を担保に供する場合を考えると、もし質権を設定するのであれば、Aはその不動産をBに明け渡さなければならず、従前のように使用することができなくなる。これに対して、抵当権を設定するのであれば、Aはその不動産をBに明け渡さずに引き続き使用することができる。
このように、抵当権の特徴は、債権者が目的物を占有することなく(非占有担保)、したがって、設定者に目的物の使用収益権能が残されたままという点にある。
企業がその活動資金を調達しようとしたり個人が住宅をローンで購入しようとしたりするとき、企業施設・設備や購入住宅を担保として銀行(債権者)に引き渡さなければならないのでは借入れの意味がないこともある。
また、債権者としても、債務者が弁済しないときに担保物の代価や収益から貸付金を回収することができれば十分であって、その引渡しまで受ける必要はない。
そこで、資金を借り受ける者がその所有する不動産を担保に供しつつ引き続き使用することができるように、占有担保である質権(不動産質)ではなく、非占有担保である抵当権がもっぱら利用される。
今日、抵当権は、不動産を担保化する手段として最も重要なものであり、「担保の女王」と呼ばれる。
抵当権も、担保物権の一種として、その特質である付従性、随伴性、不可分性および物上代位性が認められる。
(1) 付従性・随伴性
抵当権は、他の担保と同様に、債権に付従する権利である(付従性)。
すなわち、債権が成立しなければ抵当権も成立しえず(成立に関する付従性)、債権が消滅すれば抵当権も当然に消滅する(消滅に関する付従性)。また、債権が譲渡されると、抵当権もそれに伴って当然に移転する(随伴性)。
例外として、根抵当権は、不特定の債権群を一括して担保するという性格から、付従性・随伴性を有しない。
(2) 不可分性
抵当権の効力は、債権の全部が弁済されるまで目的物の全体に及ぶ(不可分性、372条による296条の準用)。
たとえば、元本全額について弁済を受けた場合でも、利息の支払いがまだ残っているときには、目的物全体に抵当権の効力が及んだままである。
(3) 物上代位性
抵当権の目的物が売却や滅失などによって金銭その他の物に変わった場合、抵当権の効力はその上にも及ぶ(物上代位性、372条による304条の準用)。
抵当権の物上代位性については、別個に取り上げてくわしく解説する。
抵当権には、優先弁済的効力(優先弁済権)が認められる。
また、優先弁済的効力を実現するための前提として、抵当権には目的物を売却(換価)する効力(権能)が含まれていると考えられる。これを換価権と呼ぶ。
抵当権実行の手続きは、抵当権に内在する換価権を根拠とするものであるから、債権に基づく強制執行とは本質を異にする。強制執行と異なり、抵当権実行には債務名義は不要である。